写研とモリサワ、をわかりやすく説明

近々、某所で「和文書体について」というテーマでお話をさせていただく機会があります。そのために「写研とモリサワ」という資料を作っていたら、思いのほか面白く仕上がり、せっかくだから、ブログの記事にしてみようと思い立ちました。「電子の文字――モリサワと写研」(PICTEX BLOG)や、「写研 – Wikipedia」を読めばわかってしまう内容ですが、写植というものを知らないひとにも、読みやすくまとめたつもりです。ミス表記や事実誤認がないように尽力しましたが、もしなにかあればお知らせください。

まず、写植とは何でしょうか。MacによるDTP(古くは QuarkXpress や PageMaker、今は Adobe Illustrator や Adobe InDesign を使って、印刷物を作ること)が普及する以前、印刷物の文字を組むために、使われていた技術のことです。これを人に説明すると「あぁ、金属に文字が彫られているやつですね! あの、凹凸が出るやつ」と言われることが多いのですが、それは写植以前の、金属活字と呼ばれるものです。その後の写植については、わかりやすくまとまった説明が「亮月写植室」というWebサイトにあります。

「しゃしょく」(または「しゃちょく」)と読みます。
正式には「写真植字」といい、写真の原理を用いて印字する方法のことを指します。いわば文字の写真で、文字の形を撮影して感材に焼き付けたものも写真植字(写植)と呼びます。

(「亮月写植室*写植ってなに?」 より)

こちらの動画をご覧ください。写植とは、こういった機械を使って行われていました。



上の動画には写研の写植機、下の動画にはモリサワの写植機が映っています。

写植機(写真植字機)は、石井茂吉森澤信夫のふたりによって発明されました。ふたりは「写真植字研究所」という会社を立ち上げ、より新しい写植機の開発に勤しみますが、その後石井と森澤は別れ、石井は「写研」、森澤は「モリサワ」(設立当初は「写真植字機製作株式会社」)という会社を興します。写研の所在地が東京、モリサワの所在地が大阪だったので「東の写研、西のモリサワ」等と呼ばれましたが、同様に「書体の写研、機械のモリサワ」等とも呼ばれました。美しい書体を数多く世に出していた写研は、業界でナンバーワンのシェアを誇り「世の印刷物の70%が写研の書体である」とさえ言われるようになります。「写植の歴史、といえば、写研の歴史のことを指す」という記述もあるほど。

80年代の後半に、Macを使ったDTPのシステムが開発されます。そこに書体を提供したのがモリサワでした。90年代の半ばからは、写植とDTPの勢力が逆転しはじめます。しかし、そのころになっても、写研は「書体と組版は一体である」として、写研の書体が他社製のシステムで使用されることを許さず、DTPでは使えないままです。2011年にいちど、写研もDTPで使える書体をリリースすることを発表しましたが、2014年になっても「完璧にやろうとしているので時間がかかってます」との事で目に見える進展はなく、その様子はブラックボックスに包まれたままです。そういえば、写研はWebサイトもありません。あの一大勢力を放った写研の書体を、今この時代に使うのは難しいのです。

写研の書体を知るひとは、モリサワの書体が多く使われる現状に違和感をおぼえる人も少なくないようです。きちんと統計をとったわけではありませんが、写研書体を好むひとは、モリサワではなく、ヒラギノや游明朝体・游ゴシック体などをデザインする「字游工房」(写研出身の鈴木勉・鳥海修・片田啓一が設立。現在は鳥海氏が代表を務める)の書体や、フォントワークスのフラッグシップフォントである「筑紫書体」(写研出身の藤田重信氏が中心となってデザイン)に流れる人が多いように思えます。

モリサワの書体が全て悪いというわけではありません。リュウミンやゴシックMB101等という、一定の支持層を持つ書体も存在しています。また、なにより、これだけ多く使われているという現状は、さほど大きな質の悪さは目立たないということかもしれません(これについては、様々な意見があると思います。DTPの黎明期にモリサワが使えたから、多くのデザイン会社がモリサワフォントを導入し、他社や印刷会社との互換性が確保されたことや、写植時代の知名度もあることでしょう)。「写研だから良い」とか、「モリサワだから悪い」とか、ブランドで判断することが正しいとも思いません。詳細は書きませんが、筆者は、写研の有名な書体にも、バランスの悪さを感じることがありますし、モリサワの書体に良い感想を持つこともあります。写研があまりにも神格化されてしまうことには違和感もおぼえます。

しかし、かつて日本の印刷物を支えた書体が、そのまま忘れ去られるのが怖いのです。「写研の書体がようやくDTPで使えるようになりました」という時代がやってくるのを、ただ、ひたすらに願うばかりです。

ゴナDB

ナール

石井太ゴシック

石井中明朝

写研書体のサンプル。上から「ゴナDB」「ナールD」「石井太ゴシック」 「石井中明朝オールドスタイル」。上から3つは「タショニムフォント見本帳No.5A」(写研)より。いちばん下は「タイポグラフィの基礎」(誠文堂新光社)(※原典=「写真植字」33号/1980 写研 5頁)より。最後のものはOKLではなくOKSの模様。実際にはOKLが多く使われたとか。

 

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